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zoom RSS コヒガシ 承

<<   作成日時 : 2016/02/11 18:43   >>

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   承

 『ヒガシ』の早急の課題は、新しい経営者だった。候補は、創業当時から潤三の元で働いていた『ヒガシ』二号店店主、岡島清と、潤三の息子で都内の有名大学で経営を学んだ東義徳の二人であった。「潤三のやり方を続けるべき」と主張する岡島に対し、「新しい時代に合った経営手法を取り入れよう」と呼びかける義徳は、生前潤三が「俺のやり方はもう古いかもなぁ…」と弱気になっていたこともあり、従業員たちにとって魅力的に映った。結果、義徳が新しい経営者になった。義徳は従来の『ヒガシ』では考えられなかった改革を次々に行っていく。
 新しい『ヒガシ』のコンセプトは「リーズナブル」だった。徹底的なコストカットにより、酒と料理を他社より低価格で提供する。そのために、海外産の安い食材を大量に仕入れ、アルバイトの雇用を増やし、従業員の人件費を大幅に抑えた。そして、再び利益を上げ始めた『ヒガシ』は急速に店舗を増やしていった。東京から関東、関西へと進出した『ヒガシ』は大手居酒屋チェーンとして全国にその名を轟かせた。もはや『ヒガシ』は店主たちの豊かな個性が発揮される場ではなく、全国どこでも安価かつ均質なサービスを提供する金太郎あめのような存在になっていた。
 しかし、『ヒガシ』の内部では、常に義徳と岡島の意見が対立していた。人件費を抑える経営方針は、従業員を貧困に落とすだけでなく、大量の離職者が出る温床にもなっていた。それを問題視する岡島は、「いくら利益が上がっても、今の『ヒガシ』は世のため人のためにならない」と批判した。だが義徳は、「会社は利益追求装置だ」と言って、一向だにしなかった。実際、毎年最高益を更新し続ける『ヒガシ』の中にあって、義徳を批判する者はいなくなっていった。
 『ヒガシ』の各店舗で働く従業員、特に正社員である店長の労働条件は過酷だった。彼らには、ランチタイムから深夜二時過ぎまでの通常勤務に加え、アルバイトの雇用・労務管理、本社への経営状況の報告などが課せられた。休日は月六日のシフト制だが、アルバイトの都合が付かない時には、自分で休日出勤して穴埋めしなければならない。売り上げの悪い店舗には、エリアマネージャーがお目付け役として派遣され、店長に指導という名の罵声を浴びせるとともに、様々な業務改善命令を下して帰って行く。それをまともにこなそうと思ったら、時間はいくらあっても足りない。過酷な労働の割には、賃金も安い。新入社員の手取りはおよそ月十八万円で、あとは年二回、雀の涙ほどのボーナスが出るだけだ。店長になると一応役職手当が付くが、「管理職」という理由で残業代が支給されなくなる。
 こうした過酷な労働条件の下では、当然多くの離職者が出る。それでも『ヒガシ』がやっていけるのは、「徹底したマニュアル主義」と「洗脳的研修」、「新卒一括大量採用」があるからだ。
 基本的な調理や店舗運営だけでなく、トラブル対応や客に使う言葉遣いの一つひとつまで事細かく定められたマニュアル教育は、短時間で従業員を均質に育て上げる。また、新入社員は入社後すぐ、東北地方の山奥で一か月の研修を行う。中では全員携帯電話を取り上げられ、八十キロマラソンや、経営理念の暗唱をし、最後に徹底的な自己破壊を受ける。今までの人生について大勢の前で語らされた挙句、「第一志望の大学に入れなかったのは向上心がなかったからだ」「恋人に振られたのは、人間的欠陥のためだ」などと否定的な言葉を社員から大量に投げかけられるのだ。その過程で泣き出したり、放心状態になる者も少なくない。すると、途端に社員は態度を変え、「それでも俺や『ヒガシ』はお前を見捨てない」などと優しい言葉をささやく。失意のどん底にいる新入社員には、それが光に見えるのだろう。感謝の言葉を口にして、会社に絶対の忠誠を誓った末、彼らは全国の店舗へと旅立っていく。それでも現場の過酷さに着いて行けず、心身をボロボロに疲弊させた多くの若者たちが離職する。しかし、どうせ次の年には『ヒガシ』の実情を知らない無知な若者が大量に入ってくる。社員教育だって、研修とマニュアルでお手軽にできる。まさに『ヒガシ』にとって、従業員など「変わりはいくらでもいる」のだ。


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