普通じゃなくていいんじゃない?

アクセスカウンタ

zoom RSS コヒガシ 転

<<   作成日時 : 2016/02/11 18:47   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

からの続き


   転

 こうした中、義徳は更なる利益追求のために新しい業務形態「ワンオペ居酒屋『コヒガシ』」を展開することを株主総会で発表した。『コヒガシ』は、メニューをすべて二百円で提供し、『ヒガシ』より割安感を強調する。駅前のビルの中でもスペースが狭く、借り手の付きにくい物件を利用することで家賃負担を軽減するとともに、従業員一人でレジ、調理、ホールすべての業務がこなせるシステム(ワン・オペレーション。いわゆる「ワンオペ」)を導入し、徹底的な業務の効率化が図られた。
 『コヒガシ』は、お小遣いの少ないサラリーマンの一人客を取り込むことに成功し、順調に売り上げを伸ばしていった。手ごろな価格とこじんまりした店内が、仕事帰り静かに飲みたい男性客に好評だった。一方、『コヒガシ』で働く店長の状況は『ヒガシ』より過酷さを増していた。店舗運営に必要なすべての作業と責任が店長一人に課せられるのだ。休日夜の忙しさは他のチェーン店から転職してきた者でさえ、「人間がする仕事じゃない」と言うレベルだったし、エリアマネージャーの締め上げも強まっていた。『コヒガシ』については内部からも批判が出始めていたが、義徳は相変わらず強気の態度を続けていた。
 ところが、ある年の十二月、『コヒガシ』新荒川店の店内で従業員が首を吊って死亡しているのが発見された。亡くなったのは有川美穂。入社一年目の新入社員で、半年間の研修を終えた後、新荒川店の店長として働いていた。テーブルの上に置かれていた遺書には、「何事にも至らない私。受けた恩の一つも返せない未熟な私。生まれてきてごめんなさい」と震える字で綴られていた。これに憤った遺族は『ヒガシ』に対し、損害賠償を請求。「会社に非はない」と主張する『ヒガシ』と遺族は真っ向から対立し、裁判になった。
 裁判では『コヒガシ』のずさんな労務管理が次々明らかになった。労働時間の把握は、店長の自己申告によるが、会社からたびたび「実態より長いのではないか」と指導が入る。それでも訂正に応じない者は査定を下げられるなど、圧力がかかり、とても実態を把握できるものではなかった。月々の労働時間については、有川の母親が半年に渡って帰宅時間を記録したメモがあった。それによれば、毎月三百時間は下らないとのことで、過労死の認定基準を大きく上回っていた。
 裁判所は、「メモの記載は虚偽である」とする『ヒガシ』の主張を退け、遺族に一億二千万円の損害賠償請求を認めた。『ヒガシ』は、判断不服で即日控訴した。
 裁判が進む傍らで、『ヒガシ』に対する世論は沸騰していた。折しも、労働者を安い賃金で使い潰す「ブラック企業」が社会問題として注目される中で起きた『ヒガシ』の「新入社員過労自殺事件」。多くのマスコミが連日、面白半分、正義感半分で『ヒガシ』の労働実態を暴き立てた。それは「ブラック企業=ヒガシ」のイメージを世間の人々に植え付けるのに十分なインパクトを与えた。売り上げは月を追うごとに落ち込み、『ヒガシ』に入社を希望する学生は激減した。『ヒガシ』はネガティブ・イメージの払しょくに躍起になったが、焼け石に水だった。見る見る間に会計は大幅な赤字を計上し、地方を中心に大量の店舗を閉めざるを得なくなった。
 それでも経営上の責任を認めず、方針の転換を図ろうとしない義徳に対し、しびれを切らした株主たちは、株主総会で義徳に対し、最高責任者の解任要求を突きつけた。それは満場一致で可決され、義徳は『ヒガシ』から追い出されることになった。その際、彼を引き留める者は誰もいなかった。強権的で人の意見に耳を貸さない義徳に、従業員たちは皆不満を持っていたのだ。


―――

続き

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
コヒガシ 転 普通じゃなくていいんじゃない?/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる