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zoom RSS タカシの一生

<<   作成日時 : 2016/03/09 00:58   >>

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「郵便でーす!」
 俺は配達員から荷物を受け取った。荷物には、差出人の名前がなく、俺の住所だけが印字されていた。茶色の紙に包まれた薄くて平たいそれを開けると中には、梱包材に包まれたDVDが二枚入っていた。それは、何の変哲もない白ラベルのDVDだったが、表面に書かれたタイトルを見たとき、俺はドキッとした。

『タカシの一生 vol.1』

 俺の名前は隆だが、偶然だよなぁ。最近、通販は利用してないし、いったい誰がこんなもの送ってきたのだろう。俺は興味本位で、とりあえず中を見てみることにした。

  おぎゃぁ、ふっ、ふぁぁ!
 猿顔の赤ん坊が白いマスクをした医者に抱き上げられた。出産を終えた女性はうっとりした表情で穏やかな笑みを浮かべている。それは、俺の母親だった。
 場面は切り替わり、母親が泣きじゃくる赤ん坊を抱いている。オムツを変えたり、授乳したり、背中をさすったりしているが、赤ん坊は一向に泣き止む気配がない。不意に、激しく反り返った赤ん坊が身体を強張らせ、手足をブルブルとけいれんさせ始めた。我が子の急変にパニックを起こした母親は、右往左往した挙句、救急車を呼んだ。病院に着く頃には、赤ん坊のけいれんは収まっていた。何の心配もないと医者に聞くと、母親は安堵の表情を浮かべ、赤ん坊に頬ずりした。
 赤ん坊は大きくなって、保育園に入った。その子は、いつも友達と一緒に元気いっぱい走り回っていた。
「おかあさん、だいすきだよ」
誕生日に子供から似顔絵入りのポストカードを受け取ると、母親はとても喜んでいた。そして卒園式のシーンで、男の子と母親のツーショットがアップになり、映像は途切れた。

 それは俺も覚えてないほど小さな頃の出来事だった。見終わって、最近連絡を取っていない母親のことを思い出すとともに、ますます疑問が増えた。誰が何のためにこんなものを?  
疑問は尽きないが、俺は荷物に入っていたもう一枚のDVDをPCに挿入した。

『タカシの一生 vol.2』

「小島隆くん。百点満点! また百点なんてすごいわね!」
 小学校の女教師が隆に満面の笑みを向けながら、社会のテスト用紙を返却した。丸ばかりが並んだ答案を握った隆は誇らしげな表情で机の間を通り抜け、自分の席に座った。クラスのあちこちから、「たかし、あたまいいなぁ」という讃嘆の声が聞こえていた。
 そこで映像は急速に逆再生を始めた。そして、社会のテストが行われた場面で止まり、再び動き始めた。

「応仁の乱が起きたのは何年でしょう?」

問題の前で手が止まった隆は、長袖の裾を少しまくり上げた。すると、文字がびっしり書かれた細長い紙が現れた。隆はその紙をチラチラと眺めてから、回答欄に、「一四六七年」と記入した。

 高校生になった隆は生徒会長を務めていた。陸上部に所属し、短距離で全国大会出場。文武両道の隆は、教師たちからの信頼も厚かった。

「ふざけんなよ豚が。てめーが安心して高校生活を送れるのは誰のおかげだと思ってんだ!」

 人気のない公園の隅で水野寛人は巨体を屈めてジッと執拗な暴行に耐えていた。カメラアングルが百八十度回転し、彼を蹴り飛ばす男の顔が映し出された。そこで快楽とも憎悪とも取れる表情を浮かべていたのは隆だった。水野が「もう許してよぉ…」と呟いても、隆は彼を蹴り続けた。

「杏ちゃん、愛してるよ。」

 ショートヘア―の女の子に向けてそう囁いた隆は、彼女と口づけを交わした。大学生になって、隆に初めて恋人ができた。二人はお互いの家を行き来したり、街でデートしたり、楽しい時間を過ごした。就職で東京を離れる隆を杏が見送るシーンで画面が静止した。

  ジジッ、ジジッ、ザザァ!

 画面が乱れ、砂嵐が流れた。それは次第にピンボケした映像に変わり、徐々に鮮明になっていった。映し出されたのは、楽屋だろうか。大きな鏡の付いた化粧台や、長いソファが置いてある。そこには映像に出てきた大勢の人――クラスメートや水野、杏たち――が一堂に集まっていた。所々かすれながらも、彼らの会話が聞こえてきた。

「俺、隆に合わ…のうん…りだったんだ。だって、小学…のテスト…どうやったって…取れるのに、…と間違えるなんて。しかも、あいつカンニングして…う。」
「俺な…いじめられ役だぜ。あんなひょ…奴、殴っ…えば一発…に。」
「私も、隆の…好きなフリ…辛かった。だって、…でもいい相…無理やり笑顔向…キスするんだよ。」
「まぁ…、皆さんの気持ちも分か…すが、どうか今しばしご辛抱を。それが我々に…られた使命…ですから。」

 そこで再び画面が乱れ、砂嵐が流れた。俺はしばらく画面を見つめていたが、それ以上新しい映像が流れることはなかった。
 俺は背筋がゾッと寒くなるのを感じた。今のDVDには、誰にも知られていないはずの後ろめたい秘密が赤裸々に収められていた。しかも、最後の楽屋での会話は何だったのだろう。みんな、俺の秘密を知った上で口裏を合わせていたのか。それに、杏は…。俺のことが好きじゃない?
 俺はしばらくあれやこれやと考えを巡らせていたが、母さんなら何か知ってるかもと思い、電話を掛けた。そして、家に届いた奇妙なDVDのことを、都合の悪い部分は抜きにして、話した。

「確かに昔そんなことがあったね。あなたから貰ったポストカード、今でも大切に持ってるよ。」
「俺はそんなことすっかり忘れてたけどなぁ。でも母さん、今聞きたいのはそんなことじゃないんだ。誰か俺のこと、ずーっと撮ってる人なんていたのかな?」
「ねぇ、隆。もしこの世界が全部作り物だったら、どうする?」

突然の質問に、俺は首を傾げた。

「えっ、それどういうこと?」
「自分以外の人間には台本が用意されていて、みんな演技してるの。家族とか、先生とかクラスメートとか適当な役割が与えられてね。それで一見普通の生活を繰り返している。知らないのは自分だけ。」
「母さん、何を言ってるの?」
「ううん。自分もいつの間にか登場人物の一人になって、偽物の世界に加わってるの。すると、どこまでが現実で、どこからが作り物か、誰にも分からなくなってる。」
「ねぇ、変なこと言わないでよ。」
「…。」
「母さん…?」
「なーんてね! 驚いた?」
「はぁ、急にどうしたのかと思ったよ。昔、何かで怒られたときに、『あんたは橋の下から拾われてきた』って言われた時くらいヒヤッとしたよ。」
「ゴメン、ゴメン。でも、そのDVDのことは心当たりがないわ。父さんがビデオ撮るの好きだったから、悪戯したのかもね。」
「そっか…。」
「あっ、誰か来たみたいだから、電話切るね。じゃあ、また。」

 俺は携帯電話を耳元から離した。この世界が全部作り物だったら。果たして、そんなことがあり得るのだろうか…?

  ピンポーン!

 チャイムが鳴って、さっきの配達員がまた荷物を持ってきた。中には『タカシの一生 final』と書かれたDVDが入っていた。俺は、ドキドキしながらそれを再生した。

 パソコンの画面に男の背中が映った。男はパソコンの前に座り、先ほどまで隆が見ていた映像を見ていた。楽屋で会話する大勢の人々。男は、ズイッと前のめりになり、食い入るように画面を見つめた。上下灰色のスウェットを身に纏ったそれは、隆に間違いなかった。
 次に男は、母親に電話を掛けた。神妙な表情をした男は、急にパッと笑顔になり、電話を切った。続けて男は、配達員から受け取った荷物を開け、DVDをパソコンに挿入した。
 画面には再び背を向けて座る男が映し出された。隆が身体を左右に揺らしたり、手を上げたりするたび、画面内の男も同じ動きをした。

 俺は、全身の毛穴からジワーッと嫌な汗がにじみ出るのを感じた。後ろにいるのはダレダ? 大きく深呼吸した俺は、思い切って振り向いた。
 そこには俺を見つめる巨大な男がいた。全身を一瞥してすぐに分かった。そいつは俺だ。
「この世界は、現実か作り物か?」
母親との会話を思い出した俺は、パソコンの画面内で虚空に向けて問いかけた。

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