ダイブ58

五十七からの続き


   五十八

十二月十四日
 今日は布団の中で一日を過ごした。頭は重く気分は最低。部屋は冷え切っていて、吐く息が白い。本格的な冬の訪れを感じる。冬はあらゆる生命の営みが停滞する死の季節。僕の魂も深い淀みの中へ引きずりこまれていきそうだ。昼に食べたラーメンが温かかった。食べることは生きること。僕は生きている。

十二月十五日
 古本屋に行って大量に本を買ってきた。「人生は何とかなる」「出家のすゝめ」「うつを治す!」「一か月で人生が変わる 七つの黄金律」「完全自殺方法論」などなど。タイトルを見ると、我ながら病んでいることが分かる。
 試しに一冊読んでみたが、自己啓発本はくだらない。目標を書き出して、それをいつまでに実現するか紙に書くこと。そして、実現までの道筋を小さな段階に分けて、一つひとつ達成していく。その都度、好きなお菓子を買う等、自分にご褒美を与える。すると小さな段階を達成するのが習慣になって、楽しみながら夢が実現するそうだ。それは社会心理学に裏付けされているそうだが、うさんくさい。だいたい今のオレの目標って何だ? もう一度、千佳子に会うためには、どんな道筋を思い描いたらいいのだろう?

十二月十六日
 人の「目」はいつも気になる。どんな風に見られているのか、どんな風に思われているのか。怖い、怖い。人が嫌いな他人に向ける態度は驚くほど冷たい。小中高と集団生活の場ではいつも冷たくされてきたから。それは職場でも同じ。オレはどんくさい。色んなことを一度に言われると、何をどうしたらいいか分からなくなる。何をしても失敗ばかり。いつも怒られていて、何をするのも怖くなる。そうして何もしないでいると、また怒鳴られて。身動きが取れなくなってしまうんだ。ああ、何を書こうとしたんだろう。とにかく人が怖い。それは人に好かれたいことの裏返しかもしれないな。いっそ開き直って、見栄を張らずにいられたらいいのに。オレは欠点だらけのダメ人間さ。

十二月十七日
 心の中で小さな男の子が泣いている。彼は、十歳にも満たない。それは小学校時代の自分だ。何か辛いことがあるたび、彼は僕の代わりに泣いてくれていた。教室でみんなの笑いものにされたあの日も、好きな女の子に振られたあの日も。狭い部屋の中で時間が止まった男の子。彼を泣かせないように頑張ったんだけど、ダメだった。今回もわんわん泣いている。オレは本当に成長しない。

十二月十八日
 そんなつもりはないんだけど、突然、明確な自死のイメージが浮かぶ。衝動的に流しの下から包丁を取り出して心臓めがけて一直線に突き刺したり、近所のマンションの屋上から目を閉じて真っ逆さまに落ちていったり。それは痛そうで嫌だなぁ。

十二月十九日
 類。その名前を名付けたのは父さんだ。「類は友を呼ぶ」ということわざがあるように、オレにたくさんの友達ができて欲しいとの願いを込めたそうだ。案外親父も友達が少なかったのかもな。しかし、皮肉なことに今オレはひとりぼっちだ。友達と疎遠になり、家族に縁を切られ、恋人に騙された。これ以上の孤独があるだろうか。誰にも縛られてない。よく考えたら自由じゃん! ざまみろ親父。ハハッ。

十二月二十日
 オレの短所をあげてみよう。
  ・根性がない
  ・根暗
  ・人づきあいが苦手
  ・ドンくさい
  ・めんどくさがり
  ・魅力がない
  ・自己中
  ・会話が続かない
まだまだありそうだけど、気分が悪くなってきた。こんなクソ人間が生きられる場所がどこにあるのだろうか。精神病院の閉鎖病棟なんてどうだ? 誰もしゃべらない。誰もが自分のことが嫌い。そんなコミュニティでもあれば、自分もやっていけるだろうか。一日中、部屋の隅で蛆虫のように悶々としていても文句を言われない。最高だね。あっ、今の自分の生活も大差ない気がする!

十二月二十一日
 これからのことを具体的に考えてみようとしたがだめだった。頭の中がモヤモヤしてすべての思考が強制終了させられた。
十二月二十二日
 古本屋で立ち読みをした。「迷歩の棋士」。ひょんなことがきっかけで将棋を始めた主人公のカケルがライバルの天才少年トウマたちと切磋琢磨しながら成長していく青春物語だ。熱い展開や思いもよらぬどんでん返しが随所にちりばめられていて、将棋はあまり分からないけど一気読みしてしまった。夢に向かって一途なカケルとトウマがまぶしい。オレは今までの人生の中で一瞬でも、彼らのように何かに一生懸命になったことがあっただろうか。それがあれば、こんなところでぐちゃぐちゃと気味の悪い文章を書き連ねてなどいないか。

十二月二十三日
 心の中にいる「悲観」担当がオレを殺しに来ている。常に耳元でマイナスのことをささやいて、オレに自分のことを価値がないと思い込ませようとしている。だからひらめいた。こいつに名前を付けてやろうと。ついでに好きな女優のイメージでも当ててやれば、もう怖くない。こいつの名前はモンモンちゃんだ! こいつが出てくるといつもオレはモンモンと悩み続けてしまうから。イメージは清楚系女優の橘朱里だ! 悩むたび朱里ちゃんが出てくると思えば、むしろ楽しみですらある。モンモンちゃん、よろしくね!


―――

続き

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