ダイブ62

六十一からの続き


   六十二

一月七日
 昼間、翔さんは突然やってきた。入ってきて部屋を見るなり、「ひでーな!」と言って笑った。確かにオレはしばらく部屋の掃除をしていない。ゴミだってその辺に放りっぱなしだ。適当にスペースを確保して座ると、翔さんはお土産を出した。なんでもしばらく秋田にいたそうで、そこの有名なお菓子だそうだ。それと合わせて、AVを渡された。タイトルは『純情素人100%』。翔さんは、「お前の趣味は分かってるから。」と言った。今はとてもそんな気分にならないが、翔さんの見立てはおおむね正しい。とりあえず、お礼を述べて受け取っておいた。
 それから翔さんは、色々質問してきた。「気分はどうだ?」「最近、ギター弾いてるか?」…。オレは最近起きたことを話すのができなくて、ほとんど無言で黙っていた。すると、「そうか…」と言って、翔さんは出て行った。怒ってしまっただろうか。それならそれで構わない。

一月八日
 また、翔さんがやってきた。そしてパパッと、「夜ご飯だ。」と言って、豚のしょうが焼きを作って帰って行った。昨日と同様、ほとんど会話はない。

一月九日
 今日も翔さんが来た。適当にギターを弾いたり、その辺にあるマンガを読んだりして帰った。この人はいったい何をしに来たのだろう。少し腹が立った。
 夜、気分が悪くなる。脳がモヤモヤして、胃にまきびしを混ぜ込んだ鉛を流し込まれたようだ。やはり自分はあの時死ぬべきだったのではないかと思う。不安を感じることは罪じゃない。あなたは何も悪くない。

一月十日
 今日は翔さんがお酒を持ってきた。「一緒に飲もう!」と言うが、とてもそんな気分じゃなかったので、怒ってしまった。「毎日毎日、来ないでください! 迷惑なんです!」。すると、「それは悪かったな。」と言って、翔さんは出て行った。胸のあたりがスッキリしない。なんだか後味が悪い。

一月十三日
 あれから翔さんは家に来なくなった。買い物をするため駅前に行ったが、広場に翔さんの姿はなかった。妙な罪悪感があったので、翔さんに「この前はすいませんでした」とメールした。しかし、返事はまだ返ってこない。

一月十五日
 久しぶりに翔さんが来た。「片づけするぞ。」と言って、部屋中に散らばったゴミを集めて捨てた。落ちてた本やノートやペンなども正しい場所に戻した。そしてワイパーでホコリを取れば、ずいぶん部屋の見栄えがよくなった。はじめはめんどくさかったが、終わってみると気分もスッキリした。

一月十六日
 また来た翔さんは、「今日で最後だ。」と言って、マーボーどうふを作ってくれた。ピリ辛風味でとてもおいしかった。翔さんと一緒にご飯を食べていると、なぜだか涙が出てきた。「翔さん、オレ…」。堪え切れなくなって、最近の出来事を翔さんに話した。千佳子との恋愛。二百五十万円の借金、家族との絶縁、突然の失踪、自殺未遂。話してるうちに感情が高ぶってきて、涙が止まらなくなった。鼻水としゃっくりでひどい状態になったが、翔さんは口を挟まず最後まで聞いてくれた。オレはやはり寂しかったのだと思う。翔さんの前で強がってはいたが、ずっと辛かった。
 それからお酒を飲んでずいぶん色々話した。音楽のこと、社会のこと、女のこと。最近ずっと考えていた「生きる意味」についても聞いてみた。そしたら、「答えは風の中。」って何かの歌のようにはぐらかされてしまった。むむむ。


―――

続き

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