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zoom RSS 頑固な二人

<<   作成日時 : 2016/02/16 22:52   >>

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「お前の顔なんか二度と見たくない。出て行け!」
 そう言って、家を追い出されたのはもう何年前のことだろう。人気お笑いコンビ『ペンケトー』のボケ担当 進藤イタル(本名:飯塚大志)は、父親の墓の前で遠い過去の記憶を浮かべていた。
 大志が生まれたのは北海道東部の田舎町だ。山と森に囲まれた穏やかな町で彼は育った。小さな頃は引っ込み思案で、何事にも失敗するのを恐れるおとなしい性格だった。ところが小学校高学年の時に、クラスみんなで出し物を披露し合う「お楽しみ会」なる企画があった。そのとき、同級生の村田清彦に誘われ、漫才をしたところ大受けしたことで大志は明るくなっていった。この清彦が、後の相方『ペンケトー』のツッコミ担当 小宮コージである。ちなみに清彦は、他のクラスメートにも「漫才しよう」と声を掛けていたが、ことごとく断られ、仕方なくあまり話したことのない大志を誘ったのだった。
 中学時代は別の学校に進んだ大志と清彦だったが、二人は同じ高校に入って再会する。このとき清彦は、大志があまりにもよくしゃべるようになっていたので、驚いた。そして二人は再びコンビを結成し、漫才を始める。大志の軽妙な語り口と清彦の冷静なツッコミ。文化祭で拍手喝采を浴びた二人は、商店街のイベントやお祭りなどでも漫才を披露するようになり、町でちょっとした有名人になっていく。ネタ作りに余念のない二人は、毎日お互いの家を行き来し、夜遅くまで話し合った。
 昔気質の大志の父 竜太郎はこれを快く思わなかった。竜太郎は林業を営んでいて、近くの山から切り出した木を売り、生計を立てていた。北海道に帰省する前は、東京で働いていたが、その時中卒であるために大変苦労していた。だから竜太郎は、大志に大学を卒業してもらいたいと思っていた。
 ところが漫才に熱を上げれば上げるほど、大志の成績は下がっていった。高校は町一番の進学校だったが、二年生の終わり頃には、教師に「このままじゃ行ける大学ないよ」と言われる始末だった。一方、何事にも要領のいい清彦は、ほどほどの成績を取って両親の叱責を巧みに回避していた。
 竜太郎と大志はたびたび衝突した。「勉強しろ」と言う竜太郎に、「そんなの意味ない」と反論する大志。どれだけ話しても二人の間は平行線で、その溝はかえって深まるばかりだった。さらに致命的だったのは、大志高三夏の札幌旅行だった。「大学を見に行くから」と竜太郎に旅費を貰った大志は、清彦と一緒に札幌に行き、大学そっちのけでお笑いライブを見ていた。尊敬する大御所芸人 藤村イサオや売り出し中の若手コンビ『はちのす』を生で見て二人は感激した。ところが地元に戻ってきてから、大志が大学を見てないことが、竜太郎にバレた。激怒した竜太郎は、大志と口論になった末殴り合い、前歯を一本折った。大志も顔に大きなあざを作り、翌日クラスメートに笑われた。
 そのまま年末になり、大志は「高校卒業後、芸人になるため東京に行く」と両親に告げた。竜太郎は最後まで反対していたが、大志は家を飛び出し、清彦と芸人を目指し始めた。
 それから大志は苦労し続けた。芸能事務所のオーディションに落ち続ける。芸人活動と両立するためにバイトを掛け持ちする。地方営業で行った大型スーパーのイベントステージで観客ゼロの中、ネタをする。自信作のネタが全くウケない。そうした長い下積み期間に、大志は何度も芸人の道を諦めようと考えた。だが、その度に反対していた親父を見返してやろうと初心に帰り、歯を食いしばった。
 転機が訪れたのは、NHKで行われた大みそかの漫才コンテストであった。その中で、大志と清彦の『ペンケトー』はグランプリこそ逃したものの、審査員特別賞に選ばれた。それからテレビでネタを披露する機会が増え、人気に火が付いた。当初は一発屋で終わると見られていた『ペンケトー』だったが、大志のほどよい天然さ加減と清彦の知的なトークで人気を保ち、複数のレギュラー番組を抱えるようになっていく。
 人気お笑い芸人と呼ばれ、多忙な日々を過ごす大志だったが、心にはいつも父親の存在が引っ掛かっていた。連絡しようと思うたび、後ろめたさと反抗心が顔を出し、どうしてもできずにいた。そうして時間は流れ、バラエティで共演した女優 柊美鈴と結婚し、一男一女をもうける頃には、大志はとうに三十を越えていた。
 ある年の秋のことだ。大志の元に母親から「竜太郎が脳梗塞で倒れた」と連絡が入った。葛藤がありつつも、すぐに病院に駆けつけた大志が見たのは、変わり果てた父親の姿だった。しわが増え、背は縮こまり、自然と格闘していた頃のたくましい肉体は影も形もなかった。認知症もかなり進んでいるとのことで、大志を見ても、うわごとを呟くばかりで誰か分かっていなかった。だが、大志が竜太郎の手を握ると、竜太郎は大志の目を見て一言、「よくやった」とはっきりしゃべった。すると、竜太郎はすぐに目を閉じて眠り始めた。それが大志の見た竜太郎の最後の姿であった。
 竜太郎が亡くなってから、母親は大志に竜太郎の部屋を見せた。そこには大量のビデオテープとDVDがあった。中にはテレビに出始めた頃から、ごく最近までの大志の出演番組がすべて録画されていた。
「お父さんね、倒れるまでずっとあなたの出る番組をチェックし続けてたの。」
母親が、ぽつぽつと語り出した。
「いつだったかテレビが地デジになってから、『うまく録画できなくなった』とか言って、電気屋さんで十万円もする機械を買ってきてね。一生懸命、説明書を読んで、なんとかDVDに録画しようと頑張ってたわ。認知症になってからは機械を使うのが難しくなったみたいで、ずいぶん時間がかかってた。でもお父さん、あなたの番組を見るときはいつも目を輝かせて嬉しそうだったわ。」
母親の話を聞くうちに、大志は目頭が熱くなるのを感じた。
「お父さん、あなたに連絡しようかどうか迷ってたみたい。でも自分が連絡することで、変な情が沸くといけないからってずっと我慢してたの。ホントに頑固な人よね。」
そう言って母親は赤くなった目を細めて笑った。
「俺、自分に子供ができて、やっと少しだけ、親父の気持ち、理解できた気がするよ。大切な人を守るってとても難しいね…。」
 竜太郎の墓の前で手を合わせた大志が呟いた。傍らのもみじは風の吹かれるに任せ、パラパラと色鮮やかな赤い葉を落としていた。

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